恋を知らない悪魔になりたい おまけ

※このお話は、恋を知らない悪魔になりたいのおまけ小説です。
単品では意味が分からないと思うので、先にそちらをお読みください。

別れなくて良いとなったらひさしは急に元気を取り戻して、泊まってっても良いって言ったよね、今日は絶対手を繋いで一緒に寝ようねと甘えはじめる。

「それよりひさし、顔洗って冷やした方が良いよ」
「うーん、だよねー。どうしようこれ」

今は洗面所で、うんうん唸りながら顔を洗っていた。ひさしは私よりよっぽど自分の見た目に気を遣うけど、それもインキュバスだからではなく性格の問題だったのだろうか。
それとなく聞くと、少なくともお父さんとおじいちゃんはそうでもないと言っていた。なるほど。いやそれも年齢の問題なのかもしれないからよくわからない。
結局の所、私にはインキュバスであることがどういうことなのか、分からない。

「恋をするのは分かったけどさぁ」

ヘアバンドを着けて本格的にケアをはじめていたひさしは、両頬に手を当てたまま私を振り返る。何をどうやったのか、本当にさっきよりマシになっていた。いつも肌が綺麗だと思っていたけど、肌荒れが治るスピードも違うんだろうか。

「ひさしって、セックスするときどう思ってるの?」
「えっ、せっ……」
「人間にとっては愛情表現の一部だけど、ひさしにとっては食事なわけじゃん。彼女がいなくてもしないわけにいかないよね」
「さっきの今でもうそんな話するの?」
「今のうちに全部聞いておいた方が良いと思って」

えぇ、とちょっと引きながら、ひさしは急いで顔にクリームを塗り込みヘアバンドを抜き取り私の方に戻ってくる。
ぴったりと私に右肩をつけて腰を下ろすと、どう言ったら分かるか分かんないけどぉ、と言いながら、ちらちら私の方を見る。

「一緒に食事するのって、普通に、愛って感じしない?」
「愛……?」
「だから、こう、夜同じ部屋に帰ってきてー、一緒にご飯準備してー、テレビ見ながらご飯食べるの。愛じゃん」
「……えっ、待って、そんな風に思いながらセックスしてたの? テレビ付けたい?」
「いや、テレビは要らない。さすがに俺も興奮はするし、夕ご飯ほど穏やかな感じでは……」

予想よりかわいらしい答えに、どう答えて良いものか分からなくなる。そっかぁ。愛かぁ。それなら、愛情表現の一部って考えても、良いのかぁ。
ちょっと恥ずかしくなってひさしから離れると、それを追って体重をかけてくる。楽しいなと思ってひさしを見ると、ひさしも満足そうに笑っていた。そうか、これって私へのサービスじゃなくて、ひさしも楽しかったんだなぁ。これまでずっと知らなかった。

「でも、ひさしは恋人いてもしばらく会えなければ他の人ともやるわけじゃん?」
「ひ、人聞きが悪いけど、そうだね。食べないと死んじゃうから」
「ひさしにとっての恋人らしいことって何なの?」

いや、セックスするばかりが恋人ではないけれど、人間には、恋人がいるなら他の人とはしてはならないという不文律がある。それが成立しないひさしにとって、恋人って一体何なんだろう。
だって、例えば私が長期出張でここを離れなきゃいけない日が来たら、誰とだって、ひさしは寝るのだ。生きていくために。

「て、手を繋ぐ、とか」
「手を」
「あと、同じベッドで寝るとか」
「同じベッドで」
「あっ、えっと、セックスじゃなくて、普通に。セックスだって恋人とするのは他の人と違うけど」
「いや大丈夫分かってる」

ピュアだな……。
どうしよう。私はさっきこんなピュアな奴相手に愛がどうとか言ってしまったのか。罪悪感がひしひしと押し寄せてくる。愛されないって拗ねたりせずに最初からちゃんと話し合えば良かった。そうしたら、ひさしは泣かなくて済んだのに。
ひさしを見ると、恥ずかしそうな顔で視線をうろうろさせている。ピュア……だな……。インキュバスには疑似恋愛を作り出す本能でもあるんだろうと思っていたけど、私が汚れていた。何ならその辺の中学生なんかよりよっぽどピュアだな、ひさし。

「そ、そろそろ寝る……?」
「あー、そうだね、明日休みだけど、さすがに」
「一緒に寝て良いよね?」
「この部屋他に寝るところないでしょ」
「そうじゃなくて」

そういえばさっき、絶対手を繋いで一緒に寝るのだと甘えてきていたっけ。
それって、そうか。ひさしの思う、最高に恋人らしいことだったのか。ひさしはまた泣きそうな目で私を見ている。

「あたりまえでしょ」

私が言うと、ひさしはへにゃへにゃと、泣き出しそうな顔のまま笑った。

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